私たちの個性は、バイオストラクチャー(気質)と性格という2つの主要な要素によって形作られています。そしてそれは変えられると思われがちですが、意のままに変えることはできません。
作者:ラルフシナ(Ralf China)ドイツのストラクトグラㇺのマスタートレーナー
翻訳:日本ストラクトグラムセンター正規研究員 磯川 友浩
人間の脳の検査方法が発展したことで、人格の研究が飛躍的に進歩しました。脳波測定、陽電子放出断層撮影(PET)、そして機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により、私たちは活動中の脳の様子を検査することができるようになりました。このような新しい検査方法で、脳が人格と行動のコントロールセンターとしてどのように機能するかを解読することができるようになったのです。
脳の機能的構造を実証することに成功した最初の人物は、アメリカのメリーランド州国立精神衛生研究所の脳行動研究所の所長であるポールD.マクリーンでした。30年以上の研究の後、彼は私たちの行動が脳によってどのように制御されているかという疑問に決定的で科学的な検証結果を見つけました。私たちの脳の中で、進化的に古い部分が重要な役割を果たすことを発見したのです。
簡単に言うと、マクリーンは、脳は進化的に発達時期の異なる3つの領域で構成されており、それらは明確に区別できることを発見しました。これらの3つの脳領域は異なる機能や役割を持っており、互いに機能的に影響を及ぼし、補完し合っています。
マクリーンは次のように記しています。
「私が提案する分類は非常に単純に見えるかもしれません。しかし、3つの基本的な形成は誰にとっても認識可能であり、解剖学的、生理学的、化学的検査技術の絶え間ない改良のおかげで、今まで以上に明確になりました。」
この単純な事実から、マクリーンの「三位一体の脳」の概念は、人間の行動についてまったく新しい説明をしています。初めて、フィーリング、感情、理性といったこれまで矛盾すると思われていたものが科学的に説明されたのです。すべての人間がこれらの3つの脳領域を持っているという解剖学的事実に加えて、脳波測定とPET画像によって、これら3つの領域の活動レベルがそれぞれ異なることを示すことができたのです。3つの脳領域の個々の相互作用は、人によって異なり、人格の「バイオストラクチャー」(気質も含む基本構造)と呼ばれます。
これらのバイオストラクチャーの違いは、非常に実用的な意味を持っています。
脳の3つの領域はそれぞれ、私たちの行動に影響を及ぼしあっています。
- 直感的で本能的な脳幹
- 感情的に衝動的な間脳
- 合理的でクールな大脳
これらの3つの要素による相互作用は、私たちの個性の一種の「遺伝的指紋」
イェール大学の研究者によって確認されたように、人は誰しも異なった考え方を持っています。彼らは2015年にジャーナルNature Neuroscienceに調査結果を発表しましたが、これによると私たちの脳の活動は、指紋やDNAと同じくらいユニークで特徴的なパターンを示しています。
遺伝的特徴のある性格の特性は、脳の3つの領域と密接に関連しており、私たちのバイオストラクチャーを決定し、私たちの主要な人格(気質)を決定します。一方、環境からもさまざまな刺激や影響を受けて性格が形成されています。このようにバイオストラクチャーと性格の相互作用は、遺伝的な気質と環境要因の性格の相互作用と考えられ、同じ環境条件で育っても人によって異なっていきます。
したがって、私たちの個性は、私たちのバイオストラクチャー(気質)と環境によって影響を受けている私たちの性格という2つの重要な要素によって決定されます。双子の研究では、人が生まれた日から特定の素因を持っていること証明しています。これは、スポーツの事例を見ると明らかです。
スポーツ科学では、遺伝的な身体的特徴によって特定のスポーツに適した人が存在することは議論の余地がありませんが、他の分野ではこの点を良く見過ごされています。長距離ランナーを相撲力士に鍛えなおそうと本気で考える人はいないでしょう。それはそれぞれのスポーツで要求される物理的条件がかなり異なるからです。同じスポーツでも優れたトレーナーは、アスリートの体質に合わせてトレーニングを行います。多くの特性は基本的には似ていますが、特定のトレーニングに対する反応は人それぞれで、 特定の筋肉が発達しやすい、または発達しにくいといった違いがあり、過負荷や怪我のリスクも人それぞれです。
よく言われることですが、人は変わりたくても変われないものなのです。
私たちがより合理的に行動するか(ホモ・エコノミクス)、より感情的に行動するか(例えば、ホーマー・シンプソン)という問題に関しても、私たちの遺伝的な特徴に依存しているのです。
だからこそ、自分に合った効果的な成功戦略を見つけるために、自分の本質を正確に知っておく必要があり、その鍵がバイオストラクチャーなのです。
すでにお気づきの通り、どういったことに自分のモチベーションが上がるか、どの目標が自分にとって達成しやすいか、どの程度まで規律と意志力を養えるのか、ということが重要となります。それらは脳内の伝達物質である神経伝達物質が中心的な役割を果たしているからです。