私たちは自分の行動をさまざまな状況に適応させることができます。
しかし、私たちのバイオストラクチャーに対応しない行動を長期的に維持することは困難です。
作者:ラルフシナ(Ralf China)ドイツのストラクトグラㇺのマスタートレーナー
1994年、ニュースマガジンFocusはSF(科学小説)のような記事を発表しました。
幸福は薬のように処方することができます。向精神薬は、自己肯定感、性的満足感、知性の向上を促します。
私たちは近い将来、自分の個性をデザインできるようになるのでしょうか?
米国でこのような多幸感が得られる新しいタイプの薬、プロザックが登場しました。プロザックを服用すると、うつ病や強迫性障害への治療に効果が認められました。フルオキセチン(セロトニン再取り込み阻害薬)は、特定の神経伝達物質に直接影響を及ぼし、多くの治療に効果をもたらしました。覚醒作用もあるため、アメリカではすぐに「ヤッピードラッグ」と、もてはやされるようになりました。
もしそのような向精神薬が健康な人々の幸福とパフォーマンスを特に改善するために使用できるとしたらどうでしょうか?
現在調査されているのは、日常の問題(例えば内気、過敏症、強すぎるまたは弱すぎる自尊心または集中力の問題など)が薬物によって具体的にどの程度に影響を受けたり排除されたりすることができます。 しかし、近年のさらなる研究成果により、さまざまな神経伝達物質、調節因子、受容体の相互作用がいかに複雑であるかがますます明らかになってきました。
ミュンヘンの精神大学病院のグレゴル ラークマン(Gregor Laakmann)教授は、このように要約しています。
「ある伝達系に介入することによって、その人の人格を具体的に変えるという希望的観測は単純ですが、残念ながら、脳はそうではありません」
神経伝達物質の作用機序(薬物が生体に効果を及ぼすメカニズム)や相互作用に関するすべての過程が解明されているわけではありませんが、ある種の神経伝達物質と人間の見方や行動の関連性が明らかにされつつあるのです。
神経伝達物質の相互作用と作用機序
神経伝達物質の相互作用と作用機序に関する知識は、3つの脳領域がそれぞれ異なる影響を受ける手がかりとなります。これは、ある特定の性格特性が顕著に現れるのか否か、どのように自分に適した行動選択を状況に応じて行っているのか示してくれます。
次の状況を想像してみてください。あなたは子供たちと一緒に夏のパーティーに参加しています。酒場で、明らかに酔っぱらった生意気な男たちが、あなたを挑発しようとしています。神経伝達物質の基準値が高い場合は、リラックスした状態で何気ない言葉で対応するか、挑発に乗って攻撃的な返事をするかもしれません。
一方、神経伝達物質の基準値が低い場合、全く異なった反応をし、この状況を脅威と認識します。心臓がドキドキして心拍数が上がり、男たちを無視して立ち去ろうとするか、恐怖心に打ち勝って「やめなければ警察を呼びますよ!」と訴えたりするかもしれません。その結果、脅威を克服して安心し、ストレスレベルも下がるでしょう。
私たちはさまざまな状況に適応することはできますが、個々のバイオストラクチャーに適さない行動を長時間おこなうことは困難で、ストレスを感じたり負担に感じます。
私たちの個々のバイオストラクチャーの平衡レベルからの短期間の逸脱の場合、神経伝達物質の恒常性は自動的に素因のある基本的なパターン(定常状態)に戻ります。遺伝的に決定された性格特性と行動は、私たちの生涯を通じて安定しています。
私たちが自分のバイオストラクチャーに反する行動に進んで訓練しようとすると、私たちは多くのエネルギーを費やさなければならず、それは私たちを高い心理社会的ストレスにさらします。ただし、高いワークロードは必ずしもすべての人にとって問題である必要はありません ― それどころか!従業員が自分の仕事を気に入ってやりがいを感じた場合、高い作業負荷は彼らにとって意味があり満足のいくものです。 彼らは自分の仕事に夢中になり、フロー体験を楽しんでいます。 しかし、自分のバイオストラクチャーに適さない活動を長期間にわたって行わなければならない場合、状況は大きく異なります。短期的には歯を食いしばって頑張れていても長期間となるとそうはいきません。
上記で簡単に触れたように、慢性的な心理的ストレスが続くと、燃え尽き症候群などの心理・心身障害を引き起こす可能性があります。
「自分らしさ」は、個人の成功と人生を楽しむための重要な
前提条件です。
コンピュータと同様に、「インストールされた(学習された)プログラム」も、私たちの個々のバイオストラクチャーである「オペレーティングシステム」に適合している必要があります。 そうしないと、システム全体の誤動作や完全な障害が発生する可能性があります。
したがって、自分自身の「オペレーティングシステム」を知り、理解することが不可欠なのです。それによって、自分がどのような成功プログラムをインストールすれば(自分に適した学習をすれば)良いかを意識的に考えることができます。目標を達成できるかどうかは、意志や自制心の強さの問題だけではないのです。
次回は、私たち一人ひとりの「やる気」がどのようにして生まれるのか、また、神経伝達物質がどのような決定的な役割を担っているのかを詳しく見ていきたいと思います。